第33話

……約束、というか。



いつも右京が問答無用で強制的に送ってくれているだけだから、事前に断るというのも変な話なのだが。



ボランティア活動の一環として来月行われる予定の、介護施設との交流会についての打ち合わせが終わり、美紅は小さく溜息をつきながら帰り支度を始めた。



机の上に出した筆記用具と配布されたプリントを片付けるだけなので、さっさと済ませて皆に挨拶をし、足早に部室を出る。



廊下を少し歩いた所で、



「間宮さん!」



同じ生徒会の男子部員で、現生徒会長である榎本えのもとが走って美紅を追いかけてきた。



「一年生が真っ先に帰るのって、マナーとしてどうなのかな?」



真顔で訊ねられ、



「あっ! すみません」



入部してまだ一ヶ月程で暗黙のルールなどもよく分かっていなかった美紅は、慌てて頭を下げた。



「なんてね。それは運動部とか吹奏楽部の話で、生徒会うちは俺が部室の鍵を管理してるから、全然構わないんだけどね」



真顔から一転、へらっと笑う榎本に、美紅はその裏に隠された感情がめなくて困惑する。



「俺さ、間宮さんのこと前からちょっと気になってて。もし良かったら、この後一緒に――」



榎本の台詞を途中まで聞いた美紅は、彼の言わんとしていることが分かり、ますます困惑した。



(どうしよう……どうやって断れば……)

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