第22話

美紅はそれを聞いて一度だけ、冷やかしでその寝具売り場を覗いたことがあるのだが……



いかにもお金持ちそうなマダムに、デパートの販売員の制服に身を包んだ天野が、オールシーズン快適に眠れるといううたい文句の羽毛布団の説明を一生懸命にしているところを目撃してしまい、笑いを堪えるのに大変だった記憶がある。



「やー、助かった。間宮、あんがと」



「早っ」



驚くべき速さで写し終えたらしい天野が、美紅の席にノートを返しにやってきた。



それを受け取った美紅が机の中にノートを入れ直していると、天野はその前の席に勝手に腰を下ろす。



椅子に対して横向きに座り、背もたれに頬杖をついて美紅の方を見る天野の目には、意地悪そうにも見える光が宿っていた。



「この間の日曜日にさ。バイト先のデパートで右京先輩を見かけたんだけど」



「ふぅん……」



そりゃあ、右京だってデパートで買い物くらいするだろう。



そう思った美紅は特に何も感じなかったのだが、



「カノジョ連れだったんだよね」



天野のそんな言葉に、ノートの上を走っていたシャープペンシルの動きがぴたっと止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る