第10話

そんな事を考えていると、



「美紅」



少し低めの、耳に心地良く響くいつもの声に呼ばれた。



「あ、せんぱ――」



「何を忘れたのか伝えるのを忘れてた」



そう言ってニヤリと笑った彼の靴は、しっかりと上履きに履き替えられていて。



「……最初から先輩が戻った方が良かったのでは?」



「俺は、先に外に用があったからな」



右京のその言葉で、先程の靴箱で見つけた手紙の存在を思い出した。



「あ、呼び出し……!」



慌てて図書室を出ようとする美紅の手首を、



「もう行く必要はない」



右京が優しく掴んで引き止めた。



「……え?」



そんな訳あるか、といぶかしげな顔をして振り返る美紅に、右京はその美しすぎる顔に腹黒そうな笑みを浮かべる。



「あの手紙の差出人、この学校で唯一俺と仲のいいお前に、俺との仲を取り持って欲しいという女子生徒だったぞ」



「……」



「勿論、その場で断ってきたけどな」



右京目当てというのは納得が出来るが、でもあの手紙はそういう雰囲気ではなかったはずだ。



もっと、物騒な感じの――



「何だ。それを聞いても妬かないのか?」



残念そうなその声に、



「私、ずっと前から好きな人がいるので」



冷たく答えると、



「……知ってる」



何かぼそりと返ってきた気がしたが、美紅にはよく聞き取れなかった。

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