第4話

「私も、次の授業で使うので――」



美紅が右京に貸せない旨を伝えようとして、



「あのっ、右京先輩!」



勇気を振り絞りすぎて震える声を張り上げたクラスの女子によって、言葉を遮られた。



「次の時間、うちのクラスは数学なので、もし良ければ私のを……」



そうして差し出された彼女の電子辞書をちらりと見た右京は、



「……美紅は、数学の授業でも電子辞書を使うのか?」



氷で出来たナイフのような、冷たく鋭い眼差しで美紅を見下ろす。



「それとも……そんな嘘をついてまで、俺にものを貸すのは嫌なのか?」



「いや、あの……」



明らかに不機嫌そうな表情を見せた右京に美紅は初めて恐怖心を抱き、右京の傍に寄っていた女子生徒は数歩後ずさった。



と、その時。



「こら、右京」



右京の頭に、数学Ⅰの教科書がポスンと音を立てて乗った。



「下級生を威圧するな」



「あ……?」



後ろから聞こえた低い声に、右京が鋭く睨み付けるようにして振り返る。



そこには、このクラスの担任でもあり、数学の担当教諭でもある市川いちかわ ゆいが立っていた。



彼も右京といい勝負なくらいに背が高く、長身の右京に睨まれても平然としている。



「何だ、センセーか」



相手が市川だと分かると、右京はハッと見下したように笑った。

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