第5話
右京のそんな態度を、やはり気にしていない大人な市川は、
「あ。
美紅へと軽くウインクをしてみせながら、そんな大嘘を堂々と吐いた。
「は? ふざけんなよ」
右京の冷たい瞳が、ますます鋭く細められるが、
「お前こそふざけてないで、自分の教室戻れ。そろそろ予鈴鳴るぞ」
市川が、今の今まで右京の頭に乗せていた教科書をやっとどかした。
「……ちっ。美紅、また後でな」
右京の手が、美紅の髪をふわりと優しく撫でる。
名残惜しそうに教室を出ていく彼の後ろ姿を見送りながら、
「間宮と右京って、そういう仲なの?」
市川が不思議そうに小首を傾げた。
「全然違います」
美紅は即答。
美紅にだって、右京の態度の意味が全く分からなくて困っている。
彼とは付き合ってもいないし、そんな感情を抱いたこともない。
右京に告白されたことだって一度もないし、強いて言うなら、美紅は彼の名前は『右京』という苗字しか知らない。
とにかく目立つ右京とは本当に関わりたくないし、別に彼の名前を知りたいとも全く思わないから、聞いたこともないけれど。
それに――美紅には幼い頃から片想いをし続けている相手がいるから。
その彼以外の男になんて、全く興味はないのだ。
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