第5話

「さて」



友季は首だけでちらりと自分の後ろを振り返る。



今、友季がいるのは、厨房に隣接している休憩室。



友季の視線の先には、昼食を食べる時に使う机や椅子、人1人が余裕で寝転がれる大きさのソファーが並べられている。



そんな休憩室の更に奥に、男子更衣室と女子更衣室があるのだが――



その女子更衣室の入口に突っ立っている舞の腕を、友季が掴んで引き寄せる。



「わっ、何!?」



そのまま舞の腕を引いた友季は、ソファーに腰を下ろすと、自分と向かい合わせになるように、自分の膝の上に舞を座らせた。



舞が逃げられないように、両腕で舞の腰をぎゅっと強く抱き寄せる。



そして、



「舞にお菓子はあげない。だから、俺に好きなようにイタズラしてみ?」



舞に向かってあやしく微笑んだ。



「と、トモくんにイタズラなんて……」



あわあわと慌てふためく舞に、



「“トリックオアトリート”って先に聞いてきたのは舞なんだぞ?」



友季は意地悪げにニヤリと笑う。



「だから、俺は“トリック”を選ぶ」



「……」



舞の計画していたハロウィンと全然違う。



仕方ないなぁって苦笑しながらお菓子をくれる友季を想像していたのに。

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