第17話 親友兼ルームメイトの両親
テストが完全に終わったその翌日。
今まで以上に熱心に授業に取り組む生徒が増えたと思う。
ほとんどの生徒が、燃え尽き症候群になるんじゃなく、逆にやる気になっていた。
俺もその中のひとりだ。
昨日のブレイズとの本気のぶつかり合いで、授業、それから次の中間テストに向けてのモチベーションが高まっていた。
俺の最強スキル『適応』は、あくまでスキルの可能性を広げるだけであって、身体能力は日頃の訓練が必要だ。
急にスキルを適応させて使おうとすれば、その分心身ともに負担がかかる。
「いやー、今日は授業終わるの早かったな。このあとどーする?」
熱心に授業を受けた結果、6コマの授業もあっという間だった。
そして今は放課後だ。
「今日はクラブ活動もない。だから図書館にでも行くか」
「おっ、珍しいな。もしかして、テストで圧倒的1位を取って、勉強に目覚めたとか?」
「そうだな。そうかもしれない」
ゲイルはあんまり図書館に行きたくなさそうだったが、今日の課題はたっぷりある。
前世だとテストのあとにたっぷり課題を出されたら不満ばかり言っていた気がする。
だがこの世界では課題も面白い。
将来戦士として活躍することに直結するし、前世の日本であれば完全に厨二病だったことが、必要不可欠な科目となっているんだから。
***
学園図書館はとんでもなく広い。
勉強に熱心な生徒たちが集まり、お互いに高め合う同好会もある。
別にその同好会に入るわけではないものの、図書館はやる気のある生徒しかこないからよかった。
「ジャック・ストロングくん、だよね?」
「え?」
やる気のある生徒……。
そういえば、女子の集団がただ集まるために来る場所であることを忘れてた。
ようやく課題に集中できてきたかと思ったそのとき、他クラスの女子3名が話しかけてきた。
「テストで全教科で1位ってすごいね!」
「しかもあのエリートクラスで!」
「首席で合格だったって?」
女子からの質問攻め。
別に嫌ってほどでもないが、課題に集中したい俺としては──。
「ちょい待ち、お嬢さんたち。エリートクラスの中のさらなるエリートであるジャックくんは今課題に取り組んでいるのであーる! ちなみに、図書館ではお静かに」
そこそこ大きな声でゲイルが言った。
ありがたい。
とは思うが、大きな声で静かにするよう注意するのはどうかと思う。
「あんた誰? ジャックくんの手下?」
「オーマイガー、そんなことも知らないのか!? おれはジャックの親友だぜ! かっこ、唯一のルームメートな。誰にも言えない秘密を共有──うっ」
またこのパターン。
俺はゲイルの腹を軽く殴った。
「アルテミス、やばいよ。この人ゲイル・タイフーンくんだって」
「え……嘘でしょ……」
アルテミスと呼ばれた女子が、やっちまった、みたいな顔をした。
そして、何も言わずに女子3人は行ってしまった。
それもダッシュで。
「ゲイルって、恐れられてるとか?」
それくらいしか思いつかないので聞いてみた。
「オーマイガー、お前にもびっくりだな。知らないのか? おれの両親」
「あー、そっか」
そういえば忘れていた。
ゲイルの両親は王国の英雄とも呼ばれていて、その功績を知らない戦士はいない。
大地を揺るがす最強の夫婦だったと聞いている。
実はもう戦いで亡くなっていた。
「てなわけで、おれとお前は最強の人除けだな。おれの両親はやばいし、ジャックのスキルは半端ない」
「確かに」
邪魔する者もいなくなったところで、勉強再開。
もう集中して課題に取り組める──。
「ジャック、ジャック。プスプス」
と思ったらゲイルだ。
「今読書してるんだけどさ、けっこうこれ面白いぜ。で、この続きがどこにあるか探したいんだけど、探すの手伝ってくんない?」
「その本見つけたところにあるんじゃ?」
「いやいや、それがなんかなかったもんで」
「じゃあこの図書館にはないってことだろ」
「頼むぜ、親友」
めんどくさいが、結局は手伝うことになった。
ため息をついてわかりやすく嫌がっても、ゲイルはニコニコしている。
はぁ。
なんだろう。
そういうところがずるいんだ。
「わかった」
***
数分後。
俺たちは図書館内を彷徨っていた。
あまりに広すぎて、どこに何があるかがわからない。本はどれも重厚感があって、いかにも書物っていう感じだ。
「やっぱ学園図書館はすごいですなー」
「あそこの本棚まで行って見つからなかったら、俺はさっきの机に戻る」
「わかったって。じゃ、それまでに見つかればいいだけじゃんか」
早く机に戻りたい。
課題を終わらせたい。
王国史のレポートと、魔術基礎で呪文書き写しの羊皮紙があった。
レポートがもう少しで終わりそうなんだ。
早く見つかってくれ。
ガタン。
少し焦っていたので、周囲が見えていなかった。
そして、俺は誰かとぶつかった。ぶつかった瞬間、何かとてつもなく冷たい「気」を感じた気がする。
ぶつかった相手が抱えていた本の山が崩れ落ち、俺に降りかかる。
ようやく顔が確認できた……俺がぶつかってしまったのは、氷の男フロスト・ブリザードだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます