第15話 知ってたからな(ブレイズside)
知ってた。
最初この学園に入学してからずっと、知っていた。
オレはこの王国で最強の戦士になるためにこの学園に入った。
ユピテル英才学園といえば、今プロの戦士として活躍しているダグラス・ブラスターも卒業している、名門中の名門。
そんな最高の学園に、オレが入らねぇわけがねぇ。
全国から集まった実力者が戦う入学試験。
首席で合格しないと意味がねぇ。
炎のスキルを代々受け継いできたバーニング家に生まれ、その家の中でも最強の炎の使い手。オヤジの何倍もオレの炎はでかい。
家族はオレの将来に期待してやがる。
期待なんぞしてくれなくても、オレは王国戦士の頂点に立つ。
「おい、おめぇ! 今回の試験、オレが首席で合格してやる!」
たまたま隣にいた、やる気のなさそうな男子にそう言った。
背は普通、黒髪で黒い目。
どう見てもオレより弱い。
「はあ」
明らかにそいつは動揺していた。
バーニング家のことは知ってるはずだ。オレがそこの長男だと知って、急に怖くなってきやがったか。
まわりの連中を見ても見るからに弱そうなやつばっか。
オレの圧勝だ。
試験の内容は黒魔術のジジイゴーストが用意した魔物と戦うこと。
戦いはオレの得意分野。
つまりこれはオレの首席合格のために用意されたようなもの。
「試験開始!」
試験が始まった。
オレは実力の差を見せつけ、まわりの連中を戦意喪失させるためにいきなり炎を繰り出した。
気合いは十分。
火力はいつも以上だ。
白い高熱がダークエルフにぶち当たる。
ダークエルフのクソは一瞬で塵になった。
「すげー。あれが実力の違いか」
「あんなスキル、見たことがない」
聞こえてくるのはオレに対する称賛の声。
そう思ってた。
なのに──。
「確か、ジャック・ストロングだったか。あれはレベルが違い過ぎる」
「まさにチートだな、あいつ」
ついさっきまで大丈夫だと見逃していた男子。
黒髪のパットしねぇガキ。
右手からは炎、左手からは風。
別の属性を使ってやがる。
いや、あれは別のスキルか。
ジャック・ストロング……。
オレの拳が震えている。
怖いものなんてない。
今まで、誰よりもオレが上だった。オレと会うやつは全員オレより弱く、オレに野心で負けていた。
なんだ……震えやがって……現実が受け入れられねぇのか。
あいつの方が……オレより強いってことが。
***
合格発表は屈辱的だった。
首席合格はジャック・ストロング。
オレは全体6位の成績での入学。
クラスはあいつと同じだ。
オヤジからは怒られた。
オレに期待してただけに、6位に満足できないらしい。知ってる。オレだってわかってる。認めたくないが、オレは素直に認めた。
ジャック・ストロングはオレよりずっと、強い。
「オーマイガー、もしかしてバーニング家の長男!? こりゃあすごいやつと同じクラスになったもんだぜ」
「あ? おめぇ誰だよ?」
「あー、そっから始まるよね。おれ、ゲイル。名字で呼ばれるの好きじゃないから、ただのゲイルってことで」
どっからどう見てもイカれたやつだ。
「おめぇ、やる気あんのか?」
「あったり前じゃん! この学園トップになりたいもんだ、おれだって。でもさ、昨日親友になったジャック・ストロング──あいつがいたら、もう、完敗ってやつよ」
「ジャック・ストロング……」
しばらく何も言えなかった。
「えっと、大丈夫? もしかして知らないとか?」
「……うるせぇ」
***
オレのクラスは確かに実力者が集まっているらしい。
それなのにジャック・ストロングは……。
「おい! 無能のカス! おめぇいい加減にしろ! 本気でこい!」
「ちょっと、ジャックくんは一生懸命頑張ってるんだよ! そんな酷いこといっちゃだめだってば!」
やつは実力を出さなかった。
オレが「無能だ無能だ」怒鳴りつけても、やつは受け流すだけ。
本気で来いよ。
あれだけの実力持ってんなら、その圧倒的な差を見せつけろよ。
リリーとかいうメスが毎回注意してくる。
オレはやつの実力を知ってた。勘違いしてるやつも多いが、ホンモノの実力。それをジャック・ストロングは持ってやがる。
「リリー、いいんだ。俺、別に気にしてないから」
クソ野郎……。
オレはおめぇを超すために来た。
あの入試で実力を見せつけておきながら、実際の学園生活では普通の生徒のふりだと?
オレは本気のおめぇと勝負してぇんだ!
それでもストロングは、普通の当たり障りのない生徒を演じ続けていやがった。
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