第4話 まさかの敵登場

「えーーー!」


 クラスは騒然としていた。


 まさか、無能と思っていたあのジャック・ストロングが!? って感じだろう。

 それもそうだな。


 ブレイズ以外のクラスの連中は、口には出さないものの、俺のことを無能だと思っていたのは間違いない。


 リリーも優しくフォローしてくれてはいたが、俺のことをすごいやつだと思っていたわけではないだろう。

 だから俺は、ここでクラス全員の度肝を抜いたというわけだ。

 

 ゲイルはというと──。


「おれ知ってた! おれ知ってたんだぜ! なんでかって? おれはジャックの大親友なのである!」


 自慢げに俺のことを話している。

 秘密を言う素振りはなさそうだが、この調子で続けばうっかり口を滑らすこともあり得る。


「ゲイル、それぐらいにしておいてくれ」


 なるべく静かな声で言った。


 とはいえ2個前の席に届けないといけないので、そこそこ大きな声量になる。

 クラスのみんなが聞いていた。


「うわぁ、ジャックくんってやっぱり凄かったんだね。びっくりしちゃったよ」


 リリーが目をまん丸くして言う。


「いや……ちゃんと勉強してたから」


 なるべく控えめに答えた。

 ここで調子に乗ったことを言って目立つわけにはいかない。


「かっこいいよね、ジャックくんって」


「え……」


 こればかりはなんと言えばいいのか。

 みんなの前でそんなことを言うのはやめてほしい。


 リリーの目は明らかに俺を……。


 いやいや、勘違いするな。

 この子はすごい純粋な女の子。単純に友達として俺を見ているに過ぎない。勝手に都合のいい解釈をしない方がいい。


「静粛に! これまで受け持った生徒の中でも、すべてで満点を獲得するほどの者は存在しなかった。拍手を送ろうではないか。ジャック・ストロングに」


 俺に対しての称賛の拍手が巻き起こった。


 ブレイズと数名の生徒以外は、感心した様子で拍手している。

 ゲイルなんか、興奮しすぎて叩き過ぎだ。


 ブレイズの目は文字通り燃えていた。


「では午後の説明をしよう。午後からは実技試験となる。メイン闘技場は4年生が使用しているため、1年生はサブ闘技場での実施だ。最初は剣術からテストを行う。剣と戦闘服アーマーの準備をただちに完了させ、闘技場へ向かうのだ」



 ***



「やあ、ジャック」


 実技試験の準備をすませ、サブ闘技場に向かっているとき。


 成績優秀のルミナスが話しかけてきた。

 わざわざ俺と話すために廊下を走ってきたらしい。少し息切れしている。


「ルミナス」


 実は俺たちは今までちゃんと会話をしたことがない。


 挨拶はしてくれていた。

 だがそれは、あくまで俺がクラスメイトだからという理由で。他のクラスメイトに挨拶しなかったことは見たことがない。

 彼はブレイズにも明るく挨拶している。


 が、予想通り、ブレイズは挨拶なんて返さない。


「君がまさかそんな実力を隠してたなんて、知らなかったよ」


「いや、今回はたまたま」


 頭をかき、へらへらした生徒を演出する。

 いやいや、今回まじたまたまだったんす、みないな感じで。


「でも、君は首席入学者、だったよね」


「……それは……まあ確かに……」


「それなのに今までは──どうして実力を隠していたんだい?」


 答えにくい質問だ。

 聞かれることはなんとなくわかっていた。


 誰だってそう思うだろう。


「俺はあんまり目立ちたくないんだ」


「うーん、本当にそれだけかい?」


 ルミナスの金色の目が不思議そうに光る。

 どこかいつもの明るいルミナスじゃない。敵意ではない気もするが、なんか違和感を感じてしまう。


 ここは本当のことを言うしかないのか。


「今回のテストで1位を取らないと、退学だと学園長に脅された。だから──」


「なるほど。つまり君は無能から僕のライバルへと変身したわけだ」


「え?」


 ルミナスの目は見たことがないほど冷たい。

 明るくみんなに微笑んでいるはずの好青年が、こんなに……。


 ついに本性を現したか。


「君はすっかり無能だと思って見下していたよ。何もできない生徒──だから哀れんでいたんだ。だけど違った。君は、少なくとも筆記においては、頑張ればできるようだね」


 ブレイズから無能って言われるのとは違う。


 他に人のいないところで、影で言われる「無能」という言葉。

 表面では優しく振る舞っていても、裏では相当見下していたってわけだ。


 その目も、その言い方も凍えるほど冷たく、ブレイズの暑苦しさとは真反対。


 哀れんでいた?

 何様のつもりだ?


「俺もやればできる」


「ほう。でも実技試験はどうかな? 筆記なんて必死に覚えれば誰でも点数取れる。実技はそう簡単なものじゃないけどね。まあ、君がスキルも隠してるんだったら、話は別だけどね、無能くん」


「……」


 怒りで何も言えなかった。

 久しぶりだな、この感情。


 ブレイズにいろいろ言われてたことに怒ったことなんてない。


 それなのに、こいつに言われたら猛烈に腹が立つ。


「それじゃあ、せいぜい頑張ってくれよ、無能のジャック」


 俺は怒りに震えていた。

 絶対、絶対にこいつだけは──見てろよ。俺の本気の実力を。

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