第3話 ついに本気を出す!

 クラスの生徒15人がそれぞれの席に着く。


 俺のクラスは首席合格者の俺と、推薦入学者3人を含んだ、エリートクラスだ。

 1年生の中でトップの特別クラス。だからもしこのクラスで1位が取れれば、必然的に学年1位──よほどのことがない限りはそういうこと。


 ブレイズには無能と言われ続けている俺も、別にこのクラス内で下ってわけでもなく、ここまでの小テストや単元テストでもまったく目立たない真ん中の方だった。


 それもなぜか、ブレイズは俺ばかりに突っかかってくるんだよなぁ。


 まあ、実技の方で、俺は今までスキルを発動したことがない。

 というか、派手に何か技を繰り出したりしたことがない。


 だからほとんどの連中は俺がスキルなしのポンコツだと錯覚するわけだ。


「さてさて、炎ボーイに実力見せつけてやろーぜ」


 席に座る前、ゲイルがにやにやしながら言ってきた。

 

 軽く頷いておいたが、今回は本気だ。

 多少目立つことにはなるが、ここで強さを見せておくことも、今後の平和で静かな生活のために必須なのかもしれない。


 もしかしたら、これを機にブレイズも絡んでこなくなるかも。


 それよりいいことなんてないじゃないか。


「では、吾輩わがはいの合図で試験開始だ。よいか、くれぐれもカンニングなどの不正行為をしないこと。吾輩にはすべてお見通しといったところだ。解答用紙を見れば、カンニングをした、不正行為を働いた、などという情報はすべて、吾輩の目に映る」


 担任のブレイン・イーグルアイ先生が俺たちを脅す。


 そうそう、この世界では誰もがスキルを持っていることが当たり前だ。

 それで、俺はスキルなしだと思われている。そりゃあ、無能って言われるのも無理はない。


 イーグルアイ先生はどう思っているんだろうか?


 あの分析眼を使えば、俺の情報がわかる?

 てことは、俺が異世界から来たってことも、本当は実力を隠していたってことも、丸見えなのか?


「では、試験開始!」


 準備する暇なくテストが始まった。


 机と向き合い、問題を解いていく。

 書くものは鉛筆でもシャーペンでもなく、インクをつけた羽ペン。


 筆記試験がある教科は少ない。

 

 午前中でたった4教科終わらせれば、あとは実技試験に移る。

 戦士になるために筆記試験ばかりやっても、あんまり意味がないってことか。


 最初に戦うテストは魔術基礎の筆記。

 呪文の名前や、魔術の歴史、王国で活躍した偉大な魔術師についての知識が問われる。俺にとってはけっこう簡単だ。

 前世で面白くもないテストを受けさせられた身からすると、呪文を覚えることが楽しくてしかたない。


「終了! ただちに手を止め、問題用紙を裏返すように!」


 ようやく最初のテストが終わった。

 近くの生徒の口から、難しかった、というような小さな声も聞こえてくる。


 俺は全部解いてしまっていた。

 それも、完璧に。


「では10分間の休憩を取り、次は武器学の筆記に入る。吾輩を失望させるでない。ベストを尽くせ!」



 ***



 それから同じような感じで午前中のテストが終わり、イーグルアイ先生の採点タイムに入った。


 とはいえ、あまり時間はかからない。

 ひとつの教科、15人分のテストを採点するのにかかる時間はだいたい20秒。1枚につき1秒ちょっとで分析しているらしい。


 最初に受けた魔術基礎の他に、武器学、王国史、そしてスキル学基礎。


 どれも俺には簡単だった。


 採点の途中、イーグルアイ先生が目を細めて俺の方を見ていたようななかったような。

 驚いていたのか、それとも……。


「すべての採点が終了した」


 担任のひとことで、クラスの雰囲気が引き締まる。

 

 斜め前の席のブレイズは相変わらずだった。

 燃える目で俺を睨む。本気でやったのか、と脅している感じだった。


 はいはい、本気でやりました。


「吾輩の所感としては、なかなか悪くない。特に今回、非常に優れた点数を叩き出した者も存在する」


 クラスのほとんどが──俺とゲイルとブレイズ以外が──ルミナス・グローリーを見た。

 

 ルミナスは成績優秀で、このクラスの推薦入学者3人のうちのひとりだ。

 俺にも明るい笑顔で挨拶してくる、優しいやつ。それでいて頭もよく、スキルも派手だ。


 確かに人気出るよな。


「優れた点数、いや、この4教科すべてにおいて満点を獲得している」


 一気にクラスが騒がしくなった。

 ルミナスなのか、ルミナスじゃないのか。


 他に名前が上がったやつといえば──。


「案外ゲイルとか!?」


「あー、それあるかも!」


 まさかのゲイル。

 

 いや、それも否定はできない。

 ああ見えてもゲイルは優秀な生徒。それに加えクラスのムードメーカーでもある。


「いやいや、おれなわけないっての。だってさ、王国史の問題でわかんなかったとこ、『ゲイル』って書いたんだぜ」


 ゲイルのひとことで、クラスが爆笑の渦に包まれる。

 俺も少しだけ笑ってしまった。ブレイズの頬でさえ緩んでいる。


 へぇ。

 ブレイズも笑うんだ。やっぱりゲイルはすごい。


「ねえねえ、ジャックくんはどうだった? リリーね、いっぱい空白作っちゃった」


 えへへ、みたいな感じで隣のリリーが話しかけてくる。

 前世ではこんな純粋で可愛い美少女はいなかった。俺は恵まれている。


「静粛に! 少し浮かれてはいまいか? まだ皆には実技試験が残っている」


 うるさくなっていたクラスが、今度は水を打ったように静かになった。


「しかし、この完璧な点数を獲得した生徒は称えたい。吾輩としても正直なところ、感心している」


「おっ、あのイーグルアイ先生からの感心きたー!」


 ゲイルが叫ぶ。

 俺より2個前の席にいるゲイルは後ろを振り返って俺を見ていた。誇らしげな目だ。


 なんでゲイルがそこまで嬉しいのか。それは謎。


 即座にイーグルアイ先生がゲイルを睨む。黙れ、ということだ。


「では称えよう。4教科満点の誇るべき生徒は──」


 まだほとんどの生徒がルミナスを見ている。

 ルミナスは、違う、とでも言うように首を横に振っていた。


「──ジャック・ストロングだ」

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