第5話 実はいいやつ!?

 ルックスもよく、生徒たちから人気もある。

 笑顔で話しかけてくるし、成績も優秀の推薦入学者、ルミナス・グローリー。


 まさか、裏はこんな性格だったとは。


 すっかりいいやつだと勘違いしていた過去の自分に怒りたい。

 今、俺の怒りのレベルは久しぶりに上がっていた。普段あんまり感情的になるわけでもなく、適当に流すのが得意技な俺が、だ。


 やってしまったなぁ、ルミナス。


 敵ながら同情するぞ。

 君は今から屈辱的な思いをすることになるんだから。


「おい、無能!」


 とか思ってたら、今度は別のやつが来る。

 

 だが、こいつはむしろマシな方だ。

 ある意味、裏表がないし、正々堂々と戦ってくる。


「ブレイズ」


「なんだその余裕の顔は!? あんなすげぇ点数取ったんならどや顔だろ! オレはおめぇのそんなところが嫌いなんだよ!」


 ああ、なんかブレイズがいいやつみたいに思えてきた。


「それ、褒めてるのか?」


「あ? ちげーよ。燃えてんだよ! 次の実技試験、オレが必ず勝つ!」


「頑張ろう」


「なんだと!? 頑張ろう、じゃねーんだよ! もっと言ってこいよ! おめぇは筆記試験でオレに勝った。それも満点で、完膚なきまでにオレを負かした。いいじゃねーか! それなら実力者らしく、オレに挑戦的な言葉を投げろってんだ!」


 ……。


 ブレイズ、負けず嫌いなのはわかるが、ちゃんと自分の敗北を認めるやつじゃないか。

 面白い。


 ルミナスの件で燃え上がっていた俺の闘争心も、今回またさらに火力が増した。

 

 しかも聞き間違いか?

 ブレイズは俺のことを今、「実力者」って言ったぞ。


「俺は無能じゃない。今回は全力で君に挑む」


 言わされた感はなかった。

 これは本心だ。


 落ちこぼれのように扱われ、みんなから無能と思われてきた。


 まあ、それは自分が望んでしていたことだし、特に気にしていたわけでもない。

 だが筆記試験であれほどの実力を発揮してしまった今、あとは実力者としてやっていくしかない。


 それに、筆記試験で満点を取ったやつが、実技では全然だめだった、というニュースはそれなりに目立つ。


 これからは実力者として、できるだけ目立たずにやっていくか。


「おぅ。オレはその言葉をずっと待ってたんだよ! 言っとくが、オレはまだおめぇを認めたわけじゃねぇ! だがな、おめぇが無能じゃないこたぁわかってた。それなのに本気でやらねぇおめぇに、ムカついてたんだ!」


 ブレイズの目はまっすぐだった。


 ブレイズの言っていたことを気にしていなかったとはいえ、彼のことは苦手で嫌なやつだとみていた。

 だが……単に熱いやつだった、ってことだ。


 本気でぶつからないのは確かに俺のせい。


 これからは実力者として、力を解放していくか。


「じゃあ、ここからは本気でいく」


 俺の目もきっと、ブレイズには燃えて見えたと思う。



 ***



 ルミナスの本性を知ったり、ブレイズに少しだけ認められたりして、実技試験のある闘技場に着いた。


 戦闘服アーマーはすでに装着している。

 自分の武器も用意できていた。


「いい風だねぇ、若いってのは」


 俺たちを待っていたのはアクロバットの先生であるウィンド・タイフーン先生だ。


 闘技場の中だというのに、爽やかな涼しい風が吹いている。

 それと同じだけタイフーン先生は爽やかな人だった。女子からも人気があるらしい。


「先生もまだ若いでしょ、ウィンド先生」


 やっぱり。


 女子生徒から甘い声が飛ぶ。

 

 ウィンド先生は、俺の記憶が確かだと23歳。

 その数字が合っていようが間違っていようが、まだまだ若いことには変わりない。実際、理不尽なことばかり押しつけてくる年配のジジイ先生とは違う。


 俺の好きな年配の先生もいるが、ひとりすごい苦手なやつがいるって話は、また今度。


「ボクの若さはとっくに飛んでいったさ。今は大人としての威厳を保とうと必死だけどね」


 この言葉にブレイズは無関心だ。

 早く戦いたいという熱い思いが、離れていても伝わってくる。


 一方、ルミナスはいつもの「いいやつ」という偽りの仮面をかぶっていた。


 笑顔で先生の話を聞き、素晴らしいですね、とでも言うような視線を先生に送っている。


 はぁ。

 どうやら俺は、もう完全にルミナスが嫌いらしい。


「さてさて、ボクはキミたちの担任であるイーグルアイ先生から実技試験の監督を任された。つまり、キミたちはけっこうラッキーってことだ。わかるかい? ボクの試験は……なんといっても激甘!」


 ほとんどのクラスメイトが頷く。

 タイフーン先生はとにかく生徒に優しく、かける言葉も甘々と言っていいほど。それで実力が伸びる生徒はいいが、厳しめにやった方がいいやつも俺が見る限りだといる。


「まずは剣術だ。細かいルールは事前に説明を受けているね? よし、じゃあ早速剣を構えて、始めるようか!」


 早い。


 準備も何もないのか。

 彼のアクロバットの授業では効率よくカリキュラムを進めているので、遅れが一切ない。それに無駄もない。俺の好きな授業だ。


 みんなそれぞれに剣を構え始める。


 スキルが剣系の生徒以外は、基本的にみんな同じタイプの剣を使うことになっている。

 それは問題ない。だが、大きな問題はスキルが剣系の生徒。


 今回の実技試験ではお互いに戦うことはない。


 事前の説明では黒魔術基礎のソーサリー・スペクター先生が、敵役の魔物を用意する、という話だった。


「タイフーン先生、調子はどうです?」


 試験前でみんな緊張しているというのに、ゲイルがのんきに聞く。


「ああ、ゲイルくんじゃないか! その顔、筆記試験はよかったんじゃないか?」


「オーマイガー、まったくまったく。面白い答え書いたら、イーグルアイ先生から呼び出しくらって怒らたって感じっすね」


 なるほど。

 だから筆記試験のあといなかったのか。


 って、やっぱり面白いな、ゲイルは。


 クラスのほとんどが笑う。当然ながらタイフーン先生は爆笑だった。


「そりゃあ最高だ! あとでブレインに聞かないとな」


「あはははは。で、こっから本題です」


 急にゲイルが真剣な顔になる。

 わざとらしく笑ったかと思えば、今度はなんだ?


「おれたちが戦う相手はどこです? 魔物、おれの目にだけ見えないとか?」


「ああ、そういうことか。いい質問だ、ゲイルくん」


 タイフーン先生は依然楽しそうだ。

 ゲイルはかなり試験を妨害し、生徒の集中を削いでいるものの、面白いから許されている。前世の日本にも、そんなやつはいたな。

 つまり、面白いっていうのは全世界共通──異世界でも適応される人間界のルールというわけだ。


 乾いた風が闘技場にやってくる。


「キミの剣術の試験、いろいろあってボクとの対戦になったってことさ」

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