第92話

入籍日をゆづの卒業式の日と決めたのは、単なる俺のワガママだ。



ゆづは俺の女だ、と法的に縛り付けたいという願望でしかない。



それなのに……ゆづにとって友達と過ごす大切な時間までをも、俺が縛り付けていいわけがない。



俺は別に、ゆづから自由を奪いたいわけではない。



「……いいよ。行っておいで」



本心からの言葉ではない、渋々嫌々なその台詞に、ゆづは俯けていた顔を慌てて上げる。



「本当に?」



俺が調理師の専門学校を卒業した時は、そういえば日が変わっても気にせずに友達とバカ騒ぎをしていたな、と思い出した。



だから、友達と過ごしたいというゆづの気持ちは凄くよく分かる。



でも、



「……日付が変わるまでには帰ってきて」



野郎ならともかく、可愛い女の子であるゆづには、防犯の意味でも早く帰ってきて欲しい。



「ご飯終わったら速攻で帰ってくるよ!」



ゆづのことだから、本当に最後の瞬間には、泣きじゃくって皆からなかなか離れられないであろうことは想像に難くないけど、



「うん……俺はここでゆづのこと待ってるから」



俺には、ただゆづを信じて待つことしか出来ない。



彼女の肩に腕を回してそっと抱き寄せると、ゆづは素直に俺に体を預けてきた。



「……その晩飯行くメンバーって、当然内田もいるんだよな?」



「うん。内田と梨乃ちゃんと本木くん」



やっぱり、いつものメンバーだ。

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