第85話

「え……?」



急にそんな風に言われると……あま邪鬼じゃくかもしれないけれど、今すぐナオくんに触れて欲しいと思ってしまう。



「ゆづのして欲しいことしかしない」



「……」



私の気持ちに気付いているのかな、と思ってしまう程に、ナオくんの台詞は――すっごくズルい。



「ゆづは今、どうして欲しい?」



――ほら、やっぱり分かって言っている。



「……」



「ちゃんと言わないと、俺は何もしないよ?」



何だろう。



私のためのような言い方をしているけれど、結局は物凄いイジワルをされている気がする。



「ゆーづ?」



「……キス、して」



腑に落ちなくてムッとしつつもそう答えると、



「ん。いーよ」



ナオくんは途端にふわりと甘い笑顔を浮かべた。



そして――軽く触れるだけの優しいキスが降ってくる。



たったそれだけのことで、きゅうんと疼いてしまう体が酷く憎らしい。



一度だけ優しく触れ合った唇は、しばらくするとゆっくりと離れてしまって。



「……」



物足りなくてナオくんの目を懇願するように見上げると、



「……何? 言ってくんなきゃ分かんねぇよ」



さっきまでのわたあめみたいな笑顔はどこへやら、今度は意地悪そうな笑みを浮かべていた。

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