第84話

声はムッとしてるけど、赤いほっぺのせいか全然迫力がない。



「大体さ、可愛いって何? 俺も男だから、好きな子からそういうこと言われるとすげぇ傷つくんだけど」



「えっ。そんなつもりは……」



普段のナオくんが格好良すぎるから、こういう時のナオくんはギャップがあって、つい可愛いと思ってしまう。



ただ、それだけのことなのに。



「……俺も一応は男だってこと、ゆづの体に直接教え込んだ方がいい?」



そう言ってソファーの上で私を押し倒すナオくんの顔は、ベッドの上でしか見たことがない真剣な男の人の顔で。



「え、あ……ここで……?」



「今、丁度ここにゴムもあるし」



テーブルの上にはエコバッグが置かれていて、ナオくんがそれをちらりと見た。



中身はドラッグストアで買ってきた日用品。



シャンプーの買い置きがないからってナオくんが言ってたけど、そんなものまで一緒に買ってたなんて、全く気が付かなかった。



「たまにはソファーでするのもアリだと思うけど」



「……恥ずかしいから、ここでは嫌かな」



「恥ずかしがってるゆづが見れるからいいんじゃん」



「……」



確かに思い返せば、ナオくんは私が恥ずかしがっている時程、嬉しそうな顔をしていることが多い気がする。



さて、どうしよう? と困っていると、



「……嘘。ゆづが嫌なら、しない」



私をソファーから引っ張り起こしたナオくんが、そのまま私を優しく抱き締めた。

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