第83話

「……しょっぱい」



唇を離したナオくんが苦笑しながら、私の頬を伝う涙を指先で優しく拭ってくれた。



「本当はゆづのこと、泣かせたくないのに……実際は泣かせてばっかで、最低な彼氏でごめんな」



「……」



黙ったまま、ふるふると首を横に振ると、



「ゆづには、ちゃんとゆづのこと幸せにしてくれるヤツの方がいいんだろうなって思うこともあるけど」



ナオくんの腕が、また私をきつく抱きすくめる。



「でも、ごめん……ゆづのこと、絶対に手放してやれない」



小刻みに震えているナオくんの腕が、私の心までをも締め付けるようで余計に苦しくなる。



「自分勝手な男で、ごめん」



「謝らないで……私は、ずっとナオくんと一緒にいたいもん」



ナオくんの背中に両腕を回して、ぎゅうっときつく抱き締め返した。



「ナオくんのことが好きすぎて勝手に辛くなってるだけだから」



「……本当に不思議なんだけど、こんな俺のどこがいいの?」



「え。前にナオくんにやめてって言われた話、またしてもいいの?」



ナオくんの魅力を語っていいのなら、永遠に喋り続ける覚悟はいつでも出来ている。



「……ごめん。やっぱいい」



語られたくない話でも思い出したのか、ナオくんはプイッとそっぽを向いた。



少しだけ見える頬が、赤く染まっていて凄く可愛い。



「ナオくんの赤いほっぺも可愛くて好きだよ」



「だから、やめてって」

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