第81話

ナオくんの部屋に到着して、



「……ふん」



まだ拗ねた表情をしたままのナオくんが、リビングのソファーの上に置かれていた大きなクマのぬいぐるみを手に取った。



それは以前、ナオくんが私のためにゲームセンターのクレーンゲームで苦労して取ってくれたもので、私の宝物。



左耳にピンクの花飾りをつけた女の子のクマさんで、



「……」



ナオくんは、私の目の前でこれ見よがしにそのクマさんをぎゅっと抱き締めた。



「あ……私のクマさんなのに……」



「……って、クマじゃなくて俺に嫉妬するのかよ」



小さく舌打ちをしたナオくんは、諦めたようにクマさんをソファーの上に戻した。



そのままそのソファーにドカッと乱暴に腰を下ろす。



私はナオくんの隣にいるクマさんを抱き抱えると、空いたそこに腰を下ろした。



「ナオくんと付き合う前は、舞ちゃんのことがすっごく羨ましいって思ってた」



舞ちゃんの名前を出した瞬間、ナオくんの体がピクッと小さく震えた。



「……」



「私だってナオくんに女の子として意識されたいのにって……舞ちゃんに対してすっごく妬いてたよ」



あの時の気持ちを思い出しただけで辛くなってきて、クマさんを抱く手に無意識に力が入る。

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