第76話

翌朝。



身体中に走る痛みで目を覚ますと、



「おはよう、ゆづ」



ベッドの中で私を抱き締めたままのナオくんと目が合った。



朝から機嫌がいいらしい彼は、にこにこと優しい笑顔をこちらに向けてくる。



それが何だか腹立たしく感じて、



「……おはよ」



挨拶を返しながら、ぷいっとナオくんから顔を背けた。



でも彼にぎゅっと抱き締められているので、



「……っ」



全身筋肉痛の私には、その動作だけでも凄く痛かった。



「大丈夫か?」



心配そうなその声には、



「……ん」



一応は頷いておく。



「優しく出来なくて、ごめん」



私の態度に傷付いたのか、それまで機嫌の良さそうだったナオくんの元気が急にしおれた。



「……ナオくんは、焦らされると獣みたいになるっていうのは学習した」



顔を背けたまま、ぼそりと呟くように言うと、



「うん。正解」



ナオくんは私の髪をそっと撫でる。



「『ナオくん検定』一級合格だ」



そんな言葉に、身体が痛いのも我慢して彼を振り返る。



「え……ちょろすぎない?」



「ゆづに対してだけはね」



ナオくんが、私を抱く腕に力を加える。



私ってナオくんに抱き締められるために生まれてきたのかな? と思ってしまうくらいに、私の身体はナオくんの腕の中に綺麗にすっぽりと収まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る