第70話

「……ゆづ」



ナオくんのいつもより低い声に、体がびくっと揺れる。



すぐ後ろにいるナオくんを恐る恐る振り返ろうとして――



私の体を抱き締めていたナオくんの両手が上に持ち上げられる。



そのまま両のほっぺを摘まれて、左右それぞれに引っ張られた。



「いっ、いひゃい、いひゃい!」



ほっぺを両手でつねられて、思わず涙目になる。



「俺はゆづを大事にしたいって言ってんのに、なんでそういうこと言うの?」



ナオくんの両手はすぐに私のほっぺから離されて、また私の体をぎゅうっと強めに抱き締めた。



そのまま私の右肩に、ナオくんがそっと顎を乗せる。



「ちょっと……ていうか、すげぇ悩んじゃったじゃん」



ムッとしたようなその声に、私の胸はドキッとする。



「ナシでした方が気持ちいいの?」



「……っ、お前ね。そういうこと他の人の前で言うなよ」



ナオくんはそう念押ししてから、



「……俺もしたことねぇから、よく分かんねぇけど。でも……ナシでしたいって願望は確かにあるから、あんま煽んな。我慢出来なくなる」



辛そうな声で懇願してきた。



ナオくんはまだ、ナシでしたことがないらしい。



それを聞いてホッとしたのと同時に、ナオくんの新たな情報を掴めて嬉しくなる。



「我慢なんて、しなくていいのに」



「……っ」



ナオくんの体がびくっと強ばって、私を抱き締める腕が更に強く締まった。

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