第66話

ナオくんはそんなにも私との結婚を望んでくれているのかと思うと、



「……っ」



勝手に涙が溢れてきた。



「え……もっと遅い方がいい?」



何かを勘違いしたらしく慌てたナオくんが、私の涙を指先でそっとすくう。



「ううん、嬉しい」



私が首を横に振ると、ナオくんはホッとしたように溜息をついて、



「じゃあ……卒業式の日、ゆづが帰ってきたら一緒に役所に行こう」



私のおでこにそっと唇を落とした。



「そろそろ、2人で住む部屋も探さないとな」



体を起こしたナオくんに引っ張られて、私の体も起こされる。



「ここじゃ狭すぎるから」



「私は別に――」



このままでも大丈夫だよ、と言いかけて、



「ここだとゆづの部屋がないから」



真剣な表情をしたナオくんに遮られた。



「毎日顔を合わせるから、ケンカする日も多分出てくるし。ゆづはすぐ家出する癖があるから、そういう時の避難場所みたいなのは家の中にあった方がいいかと思って」



「……」



流石は幼なじみというか、私のことをとてもよく分かってらっしゃる。



「だからさ、ゆづ。もしもの時は外じゃなくて自分の部屋に逃げて」



ナオくんに強く抱きすくめられて、



「ゆづが安全な場所にいるってことだけでも、把握しておきたいから」



その時の感情に任せて軽はずみな行動は取らないように気を付けなければ、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る