第65話

「性欲が強いからゆづを抱くんじゃなくて、ゆづだから抱きたいんだ」



ストレートにそんなことを言われて、顔が熱くなってくる。



鏡なんか見なくても、もう真っ赤になってるって分かる。



「だから、こんなムードも何もない状況でいきなり抱かせろなんて絶対に言わない」



「え、あ……ごめんなさい」



押し倒されてるし、キスもいっぱいされたし、十分そういうムードではあったと思うけれど、とりあえず今は黙っておく。



「付き合う前にゆづの初めてを無理矢理奪うような、酷いことをしてきたのは認めるけど。でも俺にだって、ゆづを大事にしたい気持ちはある」



「……」



そうだったんだ……全然知らなかった。



でも雑に扱われたと感じたことなんて、一度もないんだけどな。



それを言おうか言うまいか悩んでいると、



「俺に何かお返しを考えてくれてるのなら……専門を卒業したら、すぐに俺と入籍して欲しい」



突然、とてつもなく具体的な話をされて、



「……え?」



私の思考回路が停止した。



婚約指輪ももらったのだから、勿論いつかは……とは考えていたけれど。



「結婚式とか披露宴は、勿論しっかり準備を整えてからにする。でも、松野さんの所で正式に働くのは……“森川”のままじゃなくて、“間宮”になってからにして欲しい」



それは、つまり……



「卒業式の後、一緒に婚姻届出しに行こう」



私が正式にナオくんのお嫁さんになる日が決定したということ。

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