第64話

「えっ、分かんねぇの? もしかして、俺の気持ち全然ゆづに伝わってない?」



わざとらしいくらいに大きく反応してみせたナオくんは、ソファーの上で私を押し倒した。



優しいキスが沢山降ってきて、



「んっ……ナオく……」



すぐに甘い吐息に変わる私を、ナオくんがぎゅっと優しく抱き締める。



「ゆづ……愛してるよ」



「私も……ナオくんのこと愛してるよ」



とろんとした目でナオくんを見上げると、彼は真剣な眼差しで私を見下ろしていて。



「俺がその指輪のお返しとやらに何を望んでるのか、準一級のゆづになら分かるよな?」



「え……っと……」



ナオくんと一緒に過ごすうちに、彼には物欲というものがほとんどないのだということには気付いていたけれど。



そんなナオくんの望むものといえば……



「……抱かせろ、ってこと?」



どうしても、他に思い付かない。



「……ゆづって、もしかして俺のこと性欲の塊だとか思ってる?」



ナオくんはショックを受けたようにがっくりと項垂れた後、



「言っとくけど、俺が自分からそういうことを望んで迫ったの、ゆづだけだから」



鋭くて真剣な眼差しで、私を真っ直ぐに見据えた。

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