第62話

「ゆづがまだ結婚してないからって、坂下アイツが好きなように口説いてきてんの?」



「……」



図星をつかれて、否定も肯定も出来ずに黙った。



「実際にその現場を見たわけじゃねぇし、俺の想像でしかないけど……」



優しかったナオくんの腕が、急に私をきつく抱きすくめる。



「想像するだけでも嫌なんだ。ゆづが他の男に口説かれんのは」



「ナオくん……」



これは、ナオくんが酷いヤキモチを焼いている時の声だ。



ナオくんにそんな思いをさせたくなくて、今までの坂下さんの絡みもずっと隠しているつもりではいたけれど……



多分、ナオくんは最初から気付いていて、今までずっと一人で我慢してたんだ。



そんなナオくんの気持ちに気付けなかったなんて、



「……ナオくん検定、失格だ」



ショックのあまり、思わず心の声がそのまま漏れ出ていた。



「……ナオくん検定って、何?」



ナオくんの腕の力が緩んで、顔を覗き込まれる。



「いや、あの……えーっと……」



何と説明していいのか分からなくて口ごもっていると、



ちなみに、ゆづは今、何級なの?」



ナオくんの顔からは、つい先程までの不機嫌そうな表情は消えて、興味津々そうな目をしている。



「……準一級、です」



おこがましいかもとは思いつつ、自分の思う階級を正直に答えた。

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