第59話

「婚約指輪の……? あー、うん。もらったよ」



松野シェフはにこにこと笑いながら、



「ちょっと高い電子レンジ」



物凄く実用的なものの名称を、本当に嬉しそうに答えてくれた。



「……え?」



「あの時、丁度うちの電子レンジが壊れてさ。舞に何が欲しいか聞かれて、それ買ってもらったんだ」



「……」



「今も現役で使ってるよ」



「……」



何か……思ってたのと違う。



「……思ってたのと違ったかな?」



申し訳なさそうな顔でシェフに顔を覗き込まれて、



「あっ、いえ! ありがとうございます!」



私は慌てて頭を下げた。



そんな私を見て、シェフは苦笑する。



「舞にも、思ってたのと違うってはっきり言われたからさ」



「え」



「でも、俺は舞さえいてくれればそれだけで十分だし。えて物で挙げるならそれかなって思っただけで」



私の憧れの夫婦にも、そんなやり取りはされていたのか。



「直人に直接聞いてみたら? その方がお互いに色々と都合いいんじゃないかな」



……そっか、本人に聞くという手があったのか。



プレゼント=サプライズで用意する、という変な固定観念が定着してしまっていた。

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