ナオくん検定

第57話

『パティスリー・トモ』での研修を兼ねたアルバイト中。



その休憩時間中に、



「うーーーーーん……」



私は休憩室のソファーに浅く腰かけて、スマホの画面と睨めっこをしながら1人で唸っていた。



「森川ちゃん、どうしたの?」



厨房のメンバーは1人ずつ順番に休憩を取るので、本来ならこの時間にこの部屋にいてはいけないはずの坂下さんが、私の隣に腰かけてきた。



……この人、本当に人との距離感がおかしいというか。



「坂下さん……今の時間、こんなところにいて怒られないんですか?」



「平気、平気。今オーブンの中のが焼けるの待ってるところだから」



……私なら、その間に他の仕事を見つけて片付けておくとかするけどな。



そう言いたいのをぐっと堪えて黙っていると、



「今のうちに、森川ちゃんのこと口説いとこっかなって」



坂下さんはにこやかにそんなことをかした。



「私、彼氏と婚約中なんですけど」



「まだ結婚してないんだから、いいじゃん」



「……今も、婚約指輪のお礼を何にしようかって悩んでるところで、口説かれてる暇はないんですけど」



「何だっていいじゃん、そんなの。俺と楽しくお話しようよ」



「……ちょっと一旦死んで、もっと話の分かる人に生まれ変わってきてもらえませんか?」



「え? 生まれ変わったら俺と結婚してくれるの?」



「ただ純粋に目の前から消えて欲しいです」

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