第56話

今日はまだ一度も触れられていない体の中心部分が、ナオくんに触れて欲しくて疼いている。



「……可愛いなぁ、ゆづは」



唇を離して、真っ赤に染まっているであろう私の顔を見たナオくんが、嬉しそうに微笑んだ。



その直後、部屋の扉がノックもなしに勢いよくバンッと開いて、



「ゆづちゃん? 顔真っ赤だけど、おにぃに何かされたの!?」



室内に乗り込んできた知佳ちゃんが、また私を庇うようにぎゅっと抱き寄せた。



「ノックくらいしろよ、知佳!」



何もしてない、とは言い返せないナオくんは、とても不機嫌そうに知佳ちゃんを睨みつけている。



「ノックしたら犯行現場押さえられないじゃん!」



「犯行現場……」



賑やかな言い合いをしている兄妹を、なんとなく羨ましい気持ちで眺めていると、



「結月ちゃん、うちでご飯食べてく?」



兄妹の間から、いつの間にかやって来ていたナオくんのお母さんが顔を覗かせた。



「あ、いえ。そろそろおいとまします」



私のお父さんが、久しぶりに一緒にご飯を食べるのを楽しみにしてるから、そろそろ帰らないといけない。



「2人とも、いい歳してケンカしないの! 直人、結月ちゃん送ってあげて!」



お母さんの声で、やっと静かになる2人。



「ん。行こう、ゆづ」



差し出されたナオくんの手を取りながら、この楽しそうな間宮家の家族の一員になれるのかぁと考えて――



何だかとても幸せな気持ちになれた。

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