第52話

「それにしても、アイツ……あんなの一つ幾らで売ってたんだ?」



「それは……知らない方がいいと思う」



「なんで」



「私なら、たとえ第二じゃなくても千円は出す」



「おい」



ナオくんファンの気持ちは、私には分かるから。



「ゆづが直接頼みに来てくれてたら、タダで全部のボタンあげたのに」



それって、私のために学ランの前部分がはだけるということになるのでは……!?



「……鼻血噴いてもいいですか?」



「だから、なんで」



ナオくんは苦笑しながらも、私を抱き締めたまま髪を優しく撫でてくれる。



「……で? どっかに付けんの、それ」



「うん。スマホに付ける」



ナオくんからそっと離れた私は、傍の床に置いていたバッグの中からスマホを取り出した。



握り締めたままになっていたボタンのストラップ紐をスマホケースの穴に取り付けて、



「また一つ、夢が叶った」



目の前にスマホを掲げた私は、にんまりと微笑んだ。



「……ゆづにとって、今までで一番嬉しかったことって何?」



突然何を言い出すのかと首を傾げてナオくんを見ると、



「今後の参考に、と思って」



ナオくんは、恥ずかしそうポリポリと頬を搔いた。



私はしばらく考えた後で、



「……ナオくんが私のことを好きって言ってくれたこと、かなぁ……」



一番を挙げるのなら、それしかないと思った。

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