第50話

その時に、緊張で震えた指先が、ナオくんの手のひらにちょんっと当たって。



直後、ナオくんの手が、ボタン諸共に私の手をきゅっと強めに握った。



「な、ナオくん……?」



「……ゆづが中学と高校を卒業した時も、誰かにボタンもらったりした?」



そんなことを問いかけてきたナオくんの頬からは既に赤みが引いていて、真剣な表情をしていた。



「え……」



「……単に、ボタンに憧れがあるだけなのかなって」



ふいっと背けられた眼差しが、いつか見た時みたいに不安そうに見えて……



こんなに好きを伝えているのに、何にも分かってくれていないナオくんに何だか腹が立ってきた。



「中学も高校も、クラスの男の子からもらって欲しいって差し出されたことはあるよ」



「……!」



ナオくんの体がびくっと震えたのが、握られた手を通じて伝わってきた。



「でも、私は単にボタンが欲しいわけじゃない。ナオくんからもらうことが夢だったの」



ナオくんの手を強く握り返すと、



「……ゆづの夢って、いっつも俺が絡んでんの?」



ナオくんが、呆れたような……でも嬉しそうにも見える笑顔を浮かべた。



むしろ、ナオくんしか絡んでないよ」



「……本当、ゆづには敵わないな」



ナオくんはぽつりと呟くようにそう言うと、私と繋いだままの手をひっくり返して、私の手の中にボタンを握らせた。

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