第49話

別に、舞ちゃんがそうしていたから憧れているってわけじゃない。



舞ちゃんがどういう経緯で松野シェフのボタンを持っているのかは知らないけれど――



好きな人から特別な存在なんだよって認められてることが、羨ましいだけ。



卒業当時、ボタンを欲しいと言ってきた女の子たちを全員切り捨てたナオくんならきっと……



第二ボタンなんてくだらない、意味が分からないって思ってそうだし。



そんな考えのナオくんから無理にもらったって、ちっとも嬉しくない。



「女の子って、こんなのもらって嬉しいもんなの?」



……ほら。



やっぱり、ナオくんには分かってもらえない。



くだらない、なんて思われるくらいなら――



もういいよ、と言おうと口を開きかけて、



「俺のなんかでいいんなら……ゆづが持ってて」



目の前にボタンを差し出されて、私は吐き出しかけた言葉を慌てて飲み込んだ。



恐る恐るナオくんの表情をうかがうと、恥ずかしそうに背けられた顔が赤く染まっているのが少しだけ見えて。



ナオくんの手のひらに乗っているボタンを、指先でそっと摘んで受け取る。

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