第46話

ドアが開いて、ニヤニヤと妖しい笑みを浮かべた知佳ちゃんが入ってくる。



知佳ちゃんは、ナオくんともよく似た顔をした美人さんだ。



男女の違い以外でナオくんと大きく違うのは、彼女は自分が美人であることをよく理解しているところ。



彼女の一挙手一投足には自信が満ち溢れていて、それがとても格好いい。



「はい、これ。私の可愛いゆづちゃんにプレゼント」



彼女の手から、黒っぽいストラップのような物が垂れ下がる。



私が両手で受け皿を作ると、知佳ちゃんはその上にそれをぽとりと落とした。



チャラッ……と小さな音を立てて私の手の中に落ちてきたそれは、金色の輪っかでストラップの紐を取り付けられた、



「……学ランのボタン?」



黒字に金の月桂樹と『高』の文字がデザインされた、男子高校生の学ランの前を留めている大振りのボタン。



先程見ていた高校の卒業アルバムの中で、ナオくんもこのボタンの付いた学ランを着ていたから、それと同じものだとすぐに分かった。



――ナオくんが高校を卒業する時、私は自分の中学校の卒業式に参加していたから、ナオくんに『第二ボタン下さい』とは言えなくて、違う意味で涙したのを覚えている。



その時のナオくんの気持ちはとっくに知っていたから、いざ会えたところでちゃんと言えたかどうかは分からないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る