第42話

「あんま可愛いことばっか言うなよ……我慢出来なくなる」



「えへへ」



切実に頼んだのに、何故かゆづは照れくさそうに笑っている。



「ナオくんに可愛いって言われた」



「ゆづのことはいっつも可愛いと思ってるし、よく伝えてるつもりだけど」



いつもと何が違うのか?



「今日のナオくん、スーツ着てるから。格好良すぎて、いつもよりもっとドキドキしちゃう」



「……」



誰か、このゆづの可愛さを止めて欲しい。



でないと本当に、自分で自分を抑えきれなくなるから。



「ゆづ……」



ゆづの頬にかかっている髪を、右手の指先でそっと耳にかけてやる。



その動作で、不思議そうに俺を見上げたゆづと目が合った。



キスをしようと、ゆづにそっと顔を近付けて――



「あ! いたいた、おにぃ! ちょっとゆづちゃんに渡したいものが――って何してんの!?」



タイミング悪く、俺たちを追いかけてきたらしい知佳に見つかってしまった。



「ゆづちゃん家の前で何考えてんの! やらしいー! 変態! このクズ!」



俺から引き剥がしたゆづを庇うように抱き締めた知佳は、俺にそんな罵声を浴びせて、



「……来るならもっと早く来てくれれば良かったのに」



理性が利かなくなったのは知佳のせいだと思うことにした俺はというと、全く反省していなかった。

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