第41話

すぐに離れていく唇を追いかけたい衝動に駆られそうになる。



でも、ここがゆづの実家の真ん前だということを思い出して、



「……っ」



何とか我慢した。



「ゆづ? 急にどうした?」



そういう雰囲気ではなかったはずだし、何よりゆづの方からキスをしてくれるなんて、かなり珍しい。



もちろん、されるとめちゃくちゃ嬉しいけど。



「つまんないこと考えてる顔してたから」



赤く染まった顔のゆづにそんなことを言われて、



「俺の顔見てそんな風に感じてたの?」



少しだけムッとした。



分かってるつもりだ。



松野さんに対してそんな感情を抱く必要はないってことくらい。



それでもモヤモヤしてしまうのは、自分でもどうしようもないんだから。



「私には、なんでナオくんが松野シェフをそこまで意識するのか分からないけど」



“友季さん”ではなく“松野シェフ”と自然と呼べるようになったゆづが、少し眩しく見える。



「そんなにシェフのことを意識されると、私が妬いちゃう」



「へ」



「松野シェフばっかり見ないで」



相手は男だし、ゆづと比べて見たことなんてただの一度もないのに。



「ちゃんと、私のことも見て欲しい」



そんな言葉、ゆづの口からは初めて聞いたけど……



ずっと昔からそんな風に思ってくれていたのかな、と思うと――



ゆづのことを抱き締めずにはいられなかった。



「ナオくん?」



ここがゆづの家の前だとか、誰に見られようが関係ないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る