第40話

何とかゆづのお父さんとのわだかまりも解けたので、『パティスリー・トモ』の焼き菓子セットを手渡して。



松野さんのお菓子は本当に人気があるみたいで、それはもう大変に喜ばれた。



そして、それは俺の家族にも当てはまった。



改めて俺の家についてきたゆづは、俺と同じように『パティスリー・トモ』の焼き菓子セットをうちの家族に手渡してくれて。



特に母さんと知佳が大喜びしていた。



……本当に松野さんってパティシエとしてでも女にモテるんだな、と思うとまた少しだけモヤッとしてくる。



こんな感情、もう抱える必要なんてないのに。



モヤモヤした気持ちを抱え込んだまま、近いから大丈夫だと断るゆづの意見を押し切って、彼女を家まで送ることにした。



ゆづと手を繋いで、本当に近過ぎる距離を、わざと歩調を緩めてゆっくりと歩く。



でもやっぱり、あっという間に目的地に辿り着いて。



離れたくないな、と思う気持ちには蓋をして、ゆづの手をそっと離した。



「ナオくん」



ゆづに呼ばれて、そちらを振り向こうとして――



ゆづの両腕が俺の首に回されて、少し乱暴にぐいっと引き寄せられた。



上半身ががくっと傾いて、



「!」



次に感じたのは、唇に当たる温かくて柔らかい感触。



俺のよく知っている、でも全く飽きる気がしないゆづの唇の感触。

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