第39話

そういえば、さっき俺の家のダイニングで談笑していた時も、一度だけインターホンのチャイムが鳴っていた。



対応した母さんは、



「訪問販売のセールスマンだったわ」



とか言って笑ってたけど……絶対、ゆづのお父さんだったに違いない。



この近辺の大人は、ゆづに対してはめちゃくちゃ甘い気がする。



未だにムスッとしたままのゆづと一緒に、先程の客間に通されて、



「結月、俺が悪かった。謝るから、もうそんな顔はやめよう」



ゆづのお父さんが、ゆづへと頭を下げた。



「……謝る相手が違うでしょ?」



ゆづがますます険しい表情をして父を睨みつけて、



「……直人くん。さっきは失礼なことを言って申し訳なかった。結月のことを任せられるのは直人くんだけだ」



彼は今度は俺に向き直って深く頭を下げた。



「えっ! いえ、大丈夫です。気にしてませんから」



本当は物凄く気にしてたけど、本人である俺以上にゆづが怒っているのを見たせいか、今はさほど気にならない。



そもそも、ゆづがこれ程怒るのもなかなか珍しいし。



……ていうか。



拗ねると部屋を出ていくクセは、今も昔も本当に変わってないんだなと思う。



ゆづに出ていかれて焦るお父さんの気持ちは、痛い程よく分かるから。

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