第34話

前にも、松野さんからそんなことを聞かれたことはあるけど。



あの時とは比べ物にならないくらいに悪意の込められた言い方に、



「……っ」



流石にカチンときた俺は、お父さんを睨みつけようと顔を上げかけて――



「お父さんは私の幸せをぶち壊したいの!?」



俺の隣で突然怒鳴り出したゆづに驚いて、慌ててそちらを見上げた。



「私の夢、全部応援するって言ってくれたのに! ナオくんのお嫁さんになりたいって夢は応援してくれないの!?」



両目からぼろぼろと涙を零すゆづを見て、俺は慌てて立ち上がった。



ゆづの涙は、何度見ても見慣れない。



それがたとえ俺のせいじゃなくても、出来ることならあまり見たくはない。



「お父さんの嘘つき! 大っ嫌い!」



そう叫ぶと、さっときびすを返して客間から逃げ出したゆづ。



「ゆづ!」



俺はそれを慌てて追いかけた。



客間にゆづのバッグと渡すはずだった手土産のお菓子を、駐車場には俺の車を置いたまま、ゆづと一緒に外へと飛び出した。



しばらく走ってから突然ぴたりと足を止めたゆづは、



「ふえーん……」



メソメソと泣き声を上げた。



予定ではこの後、ゆづを連れて俺の家族に紹介するはずだったのに。



そのために、ゆづもかしこまったワンピースを着てきてくれたのに。

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