第33話

俺の掌は既に汗でびしょびしょになっていたけど、それを両手でぐっと握り締める。



手にしていた紙袋とゆづのバッグの取っ手が手の中に食い込んだ。



「確かに仰る通り、一時は舞のことを好きでいましたが……今は、本気で結月さんのことだけを想っています」



舞のことも含めて、嘘や言い訳を並べ立てる気は最初ハナからなかった。



「結月さんと僕の結婚を、認めて下さい」



まだ部屋の入口に突っ立ったままでいたけど、俺は手にしていた荷物を足元に置くと、その隣で正座して頭を深く下げた。



……土下座なんて、生まれて初めてした気がする。



嫌な汗が背中まで伝っていて、土下座をした拍子にシャツがべっとりと背中に張り付いてきた。



でも今の俺には、それを不快だと感じる余裕すらない。



早くこの場から立ち去りたい気持ちと、認めてもらえるまでは絶対に退きたくないという気持ちでせめぎ合っていた。



「……もしもの話だけど」



俺は下を向いているので、お父さんが今どんな表情をしているのかは分からないけど、その声だけで不機嫌そうなのは十分に伝わってきた。



「舞ちゃんが旦那さんと喧嘩して直人くんの所に逃げ込んできたら……その時は結月のことは捨てるんだろう?」

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