第22話

「ねぇ。ナオくん、離して」



「……」



「離してくれないと花嫁修業出来ないよ」



「……」



何か前にもこんなやり取りをしたことがあるような気がする。



「ナオくん?」



「ゆづはさ……」



ナオくんは私を離してくれるどころか、更にぎゅうっと強く抱き締めてくる。



「そんなのしなくていいよ」



「えっ?」



「修業なんかしなくても、ゆづには絶対に俺のお嫁さんになってもらうから」



「でも……」



ナオくんだって、結婚するなら家事の出来る子の方がいいに決まってるのに。



「俺、ゆづに料理作って食べてもらうのも好きだし。女だから家事を全部しろとか言う気もないし、その時に出来る方がすればいいと思ってる」



「……」



ナオくんの思い描く夫婦像を初めて聞いて、私は黙ってしまった。



「ゆづが今すべきなのは、一人前のパティシエになるための修業だろ? 俺も応援してるから」



きっと、“奥さんが夢を追って働く”ということに対して、これだけ理解のある男性なんてそうそういない。

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