第21話

昨日はあれから発泡酒を二本も開けてしまった。


飲み過ぎだ。


五十過ぎて心も体も管理できないなんて

俺は何やってんだか。


仕事だ仕事。


家を出ると曇り空だった。


帰るまでもってくれないかな。


早番で淡々と仕事をこなす。


もうすぐ、あの時間だな。


泣かれたから、面と向かって会いづらい。


それでも時間は来る。


お茶を入れて待つ。


「お疲れ様です」


「はい。お疲れ様です」


「今日は……


「こんなところでしょうか」


「はい。何も言ってくれないんですね」


「ん?何を言えばいいの」


「もう!泣かされたんですよ。

ズルいって言ったのに、その意味も聞かないし

ビール二杯で忘れちゃったんですか」


「あ、あぁ。泣いてたね。覚えてるよ。

年よりはズルいもんだし。

なんで怒られてるのかわからないよ」


「お、怒ってないです。

恥ずかしい思いしたのにスルーされたら

気持ちの持っていく場所がないじゃないですか」


「そ、そうなのか。

う~ん。今後思ったこと言わない方がいいのかな」


「そんなこと言ってません。

わかってないです。

これからもやさしく気持ちを伝えてほしいんですよ。

私が輝いて見えるなら、輝かしてほしいって思うんです。

そのために佐藤さんの言葉が必要なんです。

聞いてますか。

恥ずかしいのこらえて話してるのに

なに口開けてるんですか」


「えっ 口開いてた。ごめん。

そんなこと言われるなんて思ってなかったからさ。

おじさんフリーズしちゃってたわ」


「それで、どうなんですか。

私のこと見て、言葉をくれるんですか」


「あぁ。いいよ。そうする」


「しかたなく言ってるようですけど」


「うん。そうだな。

なんか今 現実感が無くてさ」


「佐藤さんと話がしたいってことだけ覚えておいてください」


そういって相場さんは売り場に戻っていった。


俺は呆けたままだ。


モブがいいこと言うマンガなんて知らないぞ。


何が起こってるんだ。


理解できない時間だった。


俺の後押しで輝けるだと。


何言ってるんだ。


そんなわけがあるかい。


あ~ わかんないけど帰ろう。


発泡酒と総菜買って帰ろう。


そして寝よう。


帰りの記憶も朧気だ。


シャンプーするのにボディソープで洗ってしまった。


情けない。


お惣菜も普段買わないものだったし。


今が夢の中だからか酔わない。


ただボ~っとしてるだけ。


エクトプラズムがこぼれ出て、どっか行ったか。


俺は何をしている。


俺はどこに向かっていこうとしてる。


こんなに定まらないのはなんだ?


ずっと動いてなかった心にリミッターでもついてしまったのか。


キャパオーバーで感情停止してるのか。


酔えないならもう寝るか。

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チャレイリー 女月満月(めつき まんつき) @yutaka1201

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