第5話
仕事を終えて帰路に就く。スーパーで発泡酒を、いや今日はビールが飲みたい。ロング缶一本だけだ。それくらい許されるだろう。つまみに唐揚げかウインナーか迷ってウインナーにした。
家につく。ふぅ。この感じ緊張からの解放なのか。それとも知らないうちに昂っていたのか。答えはわからない。買い物袋をテーブルに載せた。着替えもしないでドカッっと座った。買い物袋からビールを取りステイオンタブをプシュリと音を鳴らして開ける。ゴクゴクと喉を鳴らす。プハッ。沁みる。細胞が活性されていくようだ。鍋にウインナーを入れボイルする。熱々をカプりと噛む。肉汁が弾ける。熱々になった口に冷たいビールを流し込む。美味い。コラボに圧倒される。久しぶりに感じた幸福感。例え今日だけの幸せでも味わいつくす。実に安い男だ。まさしくモブおっさんだ。それでも昨日よりマシだ。この思いはビールが起こした勘違いかもしれない。だが、今だけは本物だと信じる。チャットで感じたワクワク感が古びて止まった柱時計のような心に油をさしてくれたんだ。はぁ。生きてる。
ビールを飲み干す。パソコンの電源を入れる。rioがいたらいいなと思いながらサイトを開く。サムネを見渡す。いないようだ。無理だったのだろう。他のサムネから適当にクリックした。はにかむ笑顔が俺に刺さる。流れるように進む時間。チラリズムを混ぜながら、くすぐってくる。この手慣れた感が目を離せなくさせる。なんだ、この違和感。手慣れた感?rioを見た後だからか。スイッチが入った後の自然な姿に惹かれた。求めてほしくて女の顔に変わる。その顔に見惚れる。内から溢れただろう声が脳を痺れさせる。計算された世界ではなくて、その時だけしか出せなかった魅力。さなぎが蝶になり美しい羽根を広げ飛んでいく。その瞬間に立ち会えたから心に刻まれた。モニター越しなのにrioに触れた気がしたんだ。
明日は面接だ。紹介してくれた店長の顔をつぶすような事はできない。切り上げて早く寝よう。トップ画面に戻った時、暗いサムネがあった。rioなのか。ドクンと体が弾けた気がした。あぁrioに会えた。
たどたどしくて、ぎこちない笑顔で、声もでてないrioがモニターの中にいた。頑張ったねと呟く俺がいた。今迄異性に対するワクワク感でサイトに来ていた。rioにも性的関心は向けている。上手く言えないがそれ以外にも惹かれてる気がする。それが何かはわからない。でも、それでいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます