第92話

ナオくんからの連絡に返事をしないまま数日が過ぎた。



どんなに無視を続けていても、



『何か怒ってる?』



『俺、ゆづの気に障るようなことした?』



『もしかして、また体調崩してるの? 大丈夫?』



こうして頻繁にメッセージが届く。



それも全部無視し続けていると、



「ゆづ」



「……」



学校終わりのバイト先に、ナオくんがやって来てしまった。



「……いらっしゃいませ。一名様ですか?」



ここはカフェで私は接客担当なので、嫌でもナオくんには声をかけないといけない。



「今日は客として来たんじゃない」



ナオくんはムッとした表情で私を見下ろす。



「なんで俺のこと避けるの?」



「今はバイト中だから、そういうのやめて」



ただでさえ、ナオくんは立っているだけでも目立つのに。



店の入口で、店内への案内を拒絶されると余計に目立つ。



「じゃあ、俺とゆっくり話す時間を作るって約束してくれたら帰る」



「……」



ナオくんが私の嫌がることをするなんて珍しいので、私は黙ってしまった。



「バイトが終わる頃に迎えに来るから」



「……分かった」



ナオくんがあまりにも悲しそうな顔をするので、頷く以外に方法はなくて。



悲しいのは私の方なのに、なんでナオくんがそんな顔するの……?



私にはもうナオくんが分からなくて、寂しそうに店を出ていくその背中を見送ることしか出来なかった。

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