第93話

お店のラストオーダーの時間が過ぎたので、入口の扉に掛けている『OPEN』の看板を『CLOSE』に変えるため、私は一旦お店の外に出た。



期間限定のおすすめメニューを紹介する看板もお店の前に出しているので、それも店内に片付ける。



風で倒れないように意外と重く作られているので、うんしょうんしょと運んでいると、



「あら? あなた、確か……」



なんとなく聞き覚えのある声に呼び止められて後ろを振り向く。



「あ……」



そこには、ついこの間ナオくんといるところを見かけた金髪ボブの美女が立っていた。



「直人の幼なじみの子よね?」



ナオくんの“ただの幼なじみ”をそろそろ卒業したいと思っていた私にとって、その言い方は結構傷付く。



「あ、はい」



でもそう名乗ったのは私だし、それが一番正しい言い方だから、私には素直に頷くことしか出来ない。



「ねぇ。ちょっと聞いてくれる!? マジ直人のヤツありえないんだけど!」



美女は、重い看板を抱えたままの私の肩を両手で掴んで激しく揺すった。



「ちょっ……」



バランスを崩しかけた私はなんとか持ちこたえて、手にしていた看板をそっと地面に下ろす。

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