第90話

そのまま自宅アパートへと帰宅した私は、玄関に飛び込んで扉を閉めた途端、



「うわぁぁぁぁん!」



ずっと我慢していた涙腺が崩壊して、幼い子供のように泣き叫んだ。



「ふえぇぇんっ! ……ひっく……えぐっ……」



あまりにも泣きすぎて、しゃくりあげたせいで呼吸が苦しい。



でも、それ以上に胸がとても苦しかった。



こんなに辛い思いをするくらいなら……



――ナオくんのことなんか、好きになるんじゃなかった。



でも、今更嫌いになんてなれない程、私はナオくんに溺れてしまっている。



このままでは、絶対に幸せになれないって分かっているのに。



そのまましばらく泣いていると、



――ピロリンッ



バッグの中のスマホにメッセージが届いたことを知らせる音が鳴り響いた。



慌てて取り出して確認すると、



「え……なんで?」



送り主はナオくんで、



『ゆづ、今日はうちの店にメシ食いに来るんだよな?』



私の予定を確認する内容だった。



そもそも、今日は私のバイトは休みで、放課後は事業所研究の後で、ナオくんの働くお店で夕食を済ませる予定だった。



そしてナオくんは――今日は遅番なので、ランチタイム終了の時刻からラストまで仕事の予定。



……あれ?



じゃあ、私がさっき見た男の人は……誰?

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