第86話

しばらくの間ナオくんのなすがままにされていると、不意に彼の手が私の胸に伸びてきた。



そのまま膨らみを服の上から優しく揉まれる。



「!」



私がびくっと体を強ばらせると、



「あっ、ごめん!」



ナオくんは慌てて私から離れた。



「ごめん……今のは完全に無意識だった」



そう言って項垂れるナオくんは、とても悲しそうな顔をする。



「ゆづといると、抑えが利かなくなるから困る……」



そんなナオくんを見ていると、聞くなら今かな、という気がしてくる。



「この間私を抱いたのは……なんで?」



答えを聞くのは怖いけど、でもナオくんの考えていることを知りたいと思った。



「……他の男にゆづを横取りされたらって思うと我慢出来なかった」



「他の人なんて……」



「顔も知らない男と楽しそうにやり取りしてただろ」



心なしかムッとして見えるナオくんに、私は少し焦る。



「……乙矢さんのこと好きかもって、ちょっとだけ思ったのは本当だよ」



「……っ」



私の言葉に、ナオくんは下唇を噛みしめて俯く。



ナオくん以外の人を好きかもしれないと思った時は、私自身も凄くショックだった。



「でもね、乙矢さんがナオくんだったって知って安心もしたけど……凄く納得しちゃった」



「……納得?」



ナオくんは、わけが分からないとでも言いたげに私を見る。



「だって別人を名乗ってても、私は結局はナオくんのことが好きなんだって気付いたから」

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