第87話

「そ……」



何故か一文字だけを発したナオくんは、真っ赤に染めた顔を私から背けた。



「そ?」



私が続きを促すと、



「……そんなに俺のこと好きでいてくれてるなら……今すぐ俺と付き合ってよ、ゆづ」



ナオくんはまだ真っ赤になっている顔を少しだけこちらに向けて、ちらりと私の目を見る。



「絶対にゆづを他のヤツに渡したくない」



こういうのを独占欲っていうのかな?



そんな感情をむき出しにするナオくんなんて、初めて見た気がする。



「ナオくんって……付き合い出したら接し方変わっちゃうタイプ?」



ナオくんが私を恋人扱いする様子が、全く想像出来ない。



「誰とも付き合ったことないから分かんないけど……ゆづと付き合えたら多分、もう堂々とゆづのこと愛でる」



「めでっ……!?」



そんなことを言ってしまってる時点で、もう私の知っているナオくんではない。



「もう俺以外の男を視界に入れないで」



「えっ……それは日常生活を送る上でかなり無理があるかと」



オロオロする私の右頬に、ナオくんの左手がするりと添えられる。



「じゃあ、俺の彼女になってよ。ゆづ」



ふわりと優しく甘く微笑むナオくんに真っ直ぐに見つめられて、



「……っ!」



体中の血液が一気に沸騰したような感覚に陥った私は、目の前がクラクラしてきてそのまま意識を手放した。



「あれっ? ゆづ!?」



かなり遠くにナオくんの焦った声が聞こえたような気がしたけど、それが夢かうつつかは私には分からなかった。

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