第85話

軽く触れ合っただけですぐに離れてしまった唇。



それを寂しく感じて目を開けると、



「……」



「……」



黙ったまま私を真っ直ぐに見つめるナオくんと目が合った。



「……んんっ……」



そうしてまたすぐに唇を塞がれて、私は吐きかけていた息を慌てて止める。



触れ合っては離れて……を繰り返すナオくんを不思議に思っていると、



「……ん、む……」



突然、深く貪り食うようなキスに変わる。



キスの合間に、



「ゆづ、舌出して」



そんなことを、少しだけかすれた声で告げるナオくんがとてつもなく色っぽく見えて、



「え……あっ、ん……」



動揺している間に深く絡め取られた。



触れ合うだけのキスも、深く絡むようなキスも――



どちらも、過去にされたことのあるキスと同じ触れ方で。



“遊びなんかじゃなく本気でする”と言われたけれど、その違いがよく分からなかった。



ただ、永遠のようにすら感じる時間を2人きりで過ごすだけ。



耳に届くのは、キスの水音と



「は、ぁ……」



「……っ」



2人の漏らす甘い吐息の音だけ。

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