第82話

「ん。でも俺が食べさせたいだけだから」



そう言ったナオくんは、スープマグもスプーンも、私に渡してくれる気配はない。



「ちゃんとフーフーしたよ」



「……」



大好きなスープのいい香りに誘われて、お腹の虫がうるさく鳴く。



仕方なく、目の前に差し出されているスプーンを口に含んだ。



いつもの、優しくて懐かしい味が口の中いっぱいに広がって、



「美味しい……!」



無意識に笑みがこぼれてしまった。



「良かった」



私の顔を見て、ナオくんはふわりと甘く微笑む。



「……っ」



ナオくんが、物凄いイケメンだっていうのは分かってたつもりだったけど。



そんなナオくんが恋人に見せる笑顔ってどんなのかなぁって勝手に想像したことも何度もあったけど。



ナオくんがここまで甘い笑顔を浮かべる人だったなんて……全然知らなかった。



発熱とは違う理由で顔を真っ赤にして俯く私に、



「ゆづ……ほんとに可愛い。マジで好き」



ナオくんはやっぱり甘い笑顔を向けて、私の頭を優しく撫でる。



「ナオくんって、そういうことさらっと言う人だっけ……?」



思わずそう訊ねると、



「さらっと言ったつもりはないんだけどな」



一瞬だけ悲しそうな顔をしたナオくんは、



「俺はゆづを本気で愛してる」



突然真剣な表情をしてみせた。

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