第81話

「ほら、ゆづ。あーん」



「……」



さっき、彼は“急ぎすぎた”と謝ってくれたはずなのに。



私の気持ちが落ち着くまでもう少し待ってくれると思ったのに。



なのにナオくんは今現在、とても甘ったるい笑顔を浮かべながら、スプーンに掬ったスープを私の口元に運ぼうとしている。



元々偏食の酷かった私は、体調を崩すと全くご飯を食べなくなるタイプで。



でも、ナオくんの作ってくれたこのオニオングラタンスープだけは、どんなに体調が悪くても食べることが出来た。



オニオングラタンスープと言っても、よくあるオーブンで表面を焼かれたものではない。



玉ねぎを飴色になるまで炒めて煮詰めて作ったスープの中に、カリカリにトーストした食パンを1口サイズにカットして入れて、その上からピザ用チーズをかけて更にコトコトと煮詰める。



食パンはスープを吸ってドロドロになってチーズと混ざり合っていて、正直なところ見た目は美味しそうではない。



まだ小学生だった頃のナオくんが、テレビで見かけて食べてみたいと言った私のために、見よう見まねで作ってくれたスープなのだ。



気になるお味はというと……これがとんでもなく美味。



この一言に尽きる。



そんな私の大好物のスープを、熱を出した私のために作ってくれたんだけど……



「ナオくん……自分で食べられるから」



いい歳してあーんをされるのは流石に恥ずかしい。



しかも、大好きな男の人に。

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