第81話
「ほら、ゆづ。あーん」
「……」
さっき、彼は“急ぎすぎた”と謝ってくれたはずなのに。
私の気持ちが落ち着くまでもう少し待ってくれると思ったのに。
なのにナオくんは今現在、とても甘ったるい笑顔を浮かべながら、スプーンに掬ったスープを私の口元に運ぼうとしている。
元々偏食の酷かった私は、体調を崩すと全くご飯を食べなくなるタイプで。
でも、ナオくんの作ってくれたこのオニオングラタンスープだけは、どんなに体調が悪くても食べることが出来た。
オニオングラタンスープと言っても、よくあるオーブンで表面を焼かれたものではない。
玉ねぎを飴色になるまで炒めて煮詰めて作ったスープの中に、カリカリにトーストした食パンを1口サイズにカットして入れて、その上からピザ用チーズをかけて更にコトコトと煮詰める。
食パンはスープを吸ってドロドロになってチーズと混ざり合っていて、正直なところ見た目は美味しそうではない。
まだ小学生だった頃のナオくんが、テレビで見かけて食べてみたいと言った私のために、見よう見まねで作ってくれたスープなのだ。
気になるお味はというと……これがとんでもなく美味。
この一言に尽きる。
そんな私の大好物のスープを、熱を出した私のために作ってくれたんだけど……
「ナオくん……自分で食べられるから」
いい歳してあーんをされるのは流石に恥ずかしい。
しかも、大好きな男の人に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます