第80話

じゃあ、いきなり私を抱いたのはなんで……? とは聞けなくて、



「……」



私は黙ってしまった。



単に欲求不満を解消したかっただけ、と言われるのが怖かったから。



「ゆづは俺と付き合うの、嫌?」



「え……わ、私がナオくんと……?」



ナオくんの彼女になれたらってずっと思ってた。



でも、でも……



「……っ」



顔が熱くなるばかりで、何も考えられなくなる。



布団を引き上げて顔を隠すようにして黙っていると、



「……ごめん。急ぎすぎた」



ナオくんの寂しそうな声が聞こえてきた。



「熱出して倒れてるゆづに聞くことじゃないよな」



そんなナオくんの声に、恐る恐る布団から顔を出すと、



「元気になったら俺とのこと、真剣に考えて欲しいな」



寂しそうに笑うナオくんと目が合った。



「……うん」



本当は、答えなんてとっくに決まってる。



でも、片想いの期間があまりにも長すぎたせいか――“彼氏”になったナオくんに、どう接すればいいのかが分からない。



ナオくんにキスされた時や抱かれた時、いつもとはまるで違う甘すぎる雰囲気に、とても驚かされた。



その甘さに慣れる期間が欲しい。



だから、もう少しだけこのままの関係でいたいと――



ワガママだとは分かっているけど、今はナオくんのお言葉に甘えることにした。

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