第78話

「俺に触れられるの、そんなに嫌?」



次の瞬間には、今にも泣き出しそうな目で真っ直ぐに見つめられた。



「ナオくん……?」



「うん……ごめん。梨乃ちゃんは帰ったから、今は俺しかいない」



しょんぼりと項垂れるナオくんの手には確かに、まだ剥離紙を剥がしていないひんやりシートが。



周りを見渡すと、ここは私の部屋で、私は自分のベッドで横になっていて……



どうやってこの状況になったのか、全く記憶にない。



今日は確か学校に行って、それから……



それから?



「……あれ?」



本当に、びっくりするほど思い出せない。



「おでこ、ちょっと触っていい?」



恐る恐る訊ねるナオくんを不思議に思いながらも頷くと、ナオくんは私のおでこのシートを優しく剥がした。



新しいのを貼り付けて、



「ゆづのこと襲っておいて、こんなこと聞ける立場じゃないんだけど……」



ナオくんは相変わらず悲しそうな目で私を見つめる。



「俺のこと、怖い?」



「……怖くはないよ」



私は枕に頭を預けたまま、ふるふると横に振った。



そして、



「でも、ナオくんが何を考えてるのかがさっぱり分からなくて……それが物凄く不安」



ずっと抱え込んでいた気持ちを初めてナオくんにぶつけた。

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