夢と現実

第77話

「ナオくん……」



ナオくんの姿を探し求めて暗闇の中を彷徨さまよっていると、



「好きだよ」



そんなナオくんの優しい声が聞こえてきて、私は声のする方を目指して歩き続けた。



やっと見えてきた光の中に、ナオくんの姿を見つけて――



「好きだよ、桃子。可愛い」



いつだったか私に声をかけてきた金髪ボブの美女を、ナオくんが愛おしそうに抱き締めていた。



「な、ナオくん……」



私の声に気付いたナオくんが、こちらを振り返る。



「あ、ゆづ。順番だからちょっと待ってて。桃子を抱いたら、次はゆづを抱いてあげるから」



それだけを告げるとナオくんは私の見ている目の前で、“桃子”と呼んだその人と深いキスを交わす。



やっぱり、私はナオくんにとって沢山いるセフレの一人でしかないんだ。



ナオくんの恋人になれないなら、そうなってもいいって思った時も確かにあった。



でも、私はやっぱり……ナオくんに心から愛されたい。



好きな人に愛されたいと願うことすら、ナオくんは許してくれないの……?



「やだっ……ナオくん……っ!」



目の前のナオくんに向かってそう叫ぶと、



「えっ、ごめん……おでこのひんやりシートを替えようとしただけなんだけど……」



耳元からやけに近いところで聞こえたナオくんの声に、



「え……?」



慌てて目を開けると、そこにはとても困った顔をしたナオくんがいて。

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