第76話

「……うん。俺はゆづのこと好きだよ」



『え……』



梨乃ちゃんが、電話の向こうで戸惑っているのが分かる。



だから、



「俺はゆづを本気で愛してる」



言葉を変えて、もう一度宣言した。



『……』



「でもこれを聞いて欲しいのは梨乃ちゃんじゃない。ちゃんとゆづに直接伝えたいから……ゆづに会わせて」



『……寝込んでる結月を襲ったりしない?』



「しないよ。そんなこと、するわけない」



『……』



梨乃ちゃんはしばらく黙り込んだ後、



『……分かりました。今、開けます』



久しぶりに敬語に戻った彼女は、渋々通話を切って玄関の鍵を開けてくれた。



部屋に通されて、ゆづが眠っているベッドの傍まで案内される。



「……ナオくん……」



苦しそうに表情を歪めて眠っているゆづは、俺の名前を呼びながらうなされていた。



「寝付いてからずっとこの調子で……ひたすら“ナオくん”を繰り返してて、もう私にはどうすればいいのか」



酷く困惑した様子の梨乃ちゃんはそう言った後で、俺を鋭く見据える。



「本当にお任せしていいんですね?」



「うん。大丈夫」



頷きながらゆづの髪をそっと撫でると、その様子を見ていた梨乃ちゃんは静かに部屋を出ていった。

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